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いーちゃんから見た世界

その3

目が合ったときから、その長髪の青年はこの場に存在するにはとても異質だ、と
ツリーは感じていた。

青年の顔をしばらく凝視した後、両手で自分の顔を
撫で、掴み、確認する。

自分は確かにリスの顔のツリーだ。
「人間の顔」のいぶきじゃない。
さっきまで一緒にいた二人も
確かに犬と猫だった。

それなのに。

何故、目の前の人は
「人間の顔」をしているのだろう。

青年は驚きを隠せないツリーの様子をしばらく眺めた後、
笑顔で語りかけた。

「ここで何してるの?」

何も答える余裕のないツリーに
構わず青年は歩み寄る。

ただでさえ人見知りが激しい上、
迷子という状況に立たされた5歳の少女は、
返事をするどころか逃げるという選択肢も思いつかなかった。

青年は少女の前で屈み、
重ねて質問する。

「何か答えてよ。
 何してるの?楽しいこと?」

「…なんで」

やっとのことでツリーが発した言葉は
青年の質問への答えではなく、
現在頭の中で一杯になっている
疑問について青年に尋ねることだった。

「なんでその顔なの?」

驚いた顔をした青年は
少しの間の後、納得がいったように
「あぁ」と声を漏らした。

「なんでって、そりゃあ、
 ここは僕の夢の中だからでしょ?
 周りと違って当たり前っていうか、
 自分の都合のいいようにできてて当然っていうか。」

納得がいかなかった。
青年の言うことは彼の立場からすると、
もしくは一般論として正論かもしれない。

でも、自分のいるこの世界には、
喫茶店のあるこの世界では、
人間以外の顔でいることが「ルール」ではないのか?

「…でも、わたしも夢の中だけど、この顔だよ。
 ……その顔じゃない。」

「へぇ。」

また青年が笑う。
今度の彼の笑顔はツリーにとって
見てて気分の良いものではなかった。
人を嘲っているような、そんな笑み。

「じゃあ君は、ここが君の夢の中だと、
 そう思い込んでいるのかい?」

ツリーの顎をもちあげ、
青年はこう続けた。

「『ここ』は僕の夢だ。
 君たちは勝手に僕の夢の中に
 入りこんできているんだよ。」

どうやら聡明な5歳児にも、
この世界には納得のいかないことが
数多くあるらしい。


*

「…正直君たちに対して、僕は友好的な感情を抱けていないんだ。」
青年はそうつぶやくと同時に、先ほどまで浮かべていた笑みを絶やした。

その表情を確認するや否や、
ツリーは自分の顔を乗せていた青年の手を払いのけ、
ツルの茂みから離れた方へと走った。

青年の呟いた言葉の意味はよく理解できていない。(ゆうこうてき?かんじょう?)
ただ、彼の表情を見て自分が
どのような気持ちを抱かれているのかを把握することができた。

(パパがママに、ママがパパによくする顔だ。)
そして彼女自身にも一瞬だけ向けられる表情。

ただし、彼女に向けられる場合、両親の表情はすぐに
悲しそうな、しかし優しいものに変化する。

ツリーは振り返り、青年の顔を見た。

もしかしたら、自分の両親と同じように

表情が変わっているかもしれない。
自分が見たくない表情では無くなっているかもしれない。

青年の顔は確かに変わっていた。

しかし優しい顔になど変わらず、
元の人を嘲るような顔に戻っていた。
不快ではあるが、あの表情よりかはマシだ。

「あれ、逃げちゃうのかい?
 折角なんだし、僕が如何に君たちの事を
 嫌っているかを聞いていってくれないかな?」

青年の言葉に耳を傾けたくはなかった。
ツリーには意味のわからない言葉が多いし、

何より突然あんな顔をされて言われるのが嫌だ。

わたしはあの顔を見たくないからここに来ているのに。

ツリーは目を閉じて首を振りながら走った。
そうすれば消えてしまうかもしれないと思ったのだ。
あの青年も。あの顔も。

突然、地面の感覚がなくなった。
目をあけてからもしばらく
ツリーは自分の状況を把握できずにいた。

青年も彼女が突然視界から消えたので
驚きはしたものの、状況を理解するのは
彼女よりも少し早かった。

「あーあ、落ちちゃった。」

ツリーは悲鳴を上げながら崖から落ち、
そしていぶきは大声をあげて真夜中に目覚めた。


〜つづく〜

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