ごめんね火田さん

その5

「じゃあ、親友の子に宜しくね。」

「あ、どうしよう…

 忘れてた、美樹たちのこと。」

あわてて振り返って私はムーンを見る。
ムーンは苦笑いを浮かべている。

他の客のみんなはもういない。
「店を出た」ようだ。

ムーンは少し考えてこう話し続けた。

「いいじゃん、どんな結果でも。
 二人がどんな気持ちで抱き合ってたか
 わかるまではいつも通りふるまえばいいんじゃない?

 僕がこんなこと言える立場じゃないけど、
 その親友や、先輩だってフレイの考えてることを知れば
 きっとその事に対して「申し訳ない」って
 少なからず頭のどこかで考えると思うんだ。

 口では謝ってこないかもしれない。
 もしかしたらこれから先フレイは二人から
 避けられ続ける結果になるかもしれない。

 でもきっと申し訳ないと思ってる。
 そう信じて、それを口で言わせないように
 今までどおり明るく振舞えばいいんだよ。」

なんだかよくわからないけど、
なんとなくムーンの言いたいことが
わかりそうな気がする。

なんでだろう。
こういう考え方をすると
余計なことを悩む必要がなくなって
やるべきことがはっきり見えてきそうだ。

しばらくだまって考えていると
ムーンがこう続ける。

「あぁ、なんかごめんね。
 よくわかんないのにえらそうなこと言って。

 それで最悪な結果になったら僕が謝るよ。」

「なんでアンタが謝るのよ。」

「人に謝らせない」ことを勧めてくる本人が
必要以上に謝ってくる。
それって、なんだか滑稽だ。

「…わかったわ。試しに現実に戻ったら
 アンタの言うとおりにやってみる。

 お言葉に甘えて、もし変なことになったら
 全部アンタのせいにするから。」

「う。
 うん…自分から言っちゃったし別にいいよ…。」

本当に困ってしまったムーンに、
私はこういってやる。

「ウソウソ。
 色々気にかけてくれてありがとう。
 うまく片付いたらなんかおごるわ…ね…。」

言い終わらないうちに急激な眠気が襲う。
これで「店を出る」ことになるのか。

「えぇっ?そんなの悪いよ。
 ってかそんなこと言ったまま
 『店を出』ないでくれよ…。」

 

…こうして私の昨晩の夢は終わり、
朝が来ていた。

どうやら私の「新しい気になる人」は
あの夢の中の犬顔らしい。

信じたくないけど。

部活用のユニフォームに着替え終わり、
私は今日の放課後のことについて
考え続けた。

美樹に「ごめんね」と言われる回数を
極力減らしてやる。
その分だけ先に「お幸せに」って言ってやるんだ。
んで、先輩にはもう一回言われちゃったけど、
明日以降はこれ以上言わせないんだ。

そして、あの犬顔、ムーンに
次会った時に「ごめんね」って言われないよう
先に「解決したよ、ありがとね」って言ってやろう。


〜了〜

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