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ごめんね火田さん

その3

そうして言われるがままに
私は店長を除くみんなと『店から外出した』。

店の外は洋風の家が
道以外のすきまを作らず並んでいた。

石畳の道はなだらかな斜面に沿って敷かれていて、
道を下るとしょっちゅう階段と出くわした。
正面を望むと海と空の境目がくっきりと見える。
どうやらここは海沿いの町のようだ。

「驚いたろ?
 俺らの住んでる現実の町とは
 別物だよな〜。」

眺めのよい景色と
道の両脇の見慣れない店の看板を
きょろきょろ見回していると、
横からゴルドが声をかけてきた。

「俺らの住む現実の町?」

思わず彼の言葉を声に出す。
でもそれはゴルドに対する返事だけではなかった。

ここは私だけの夢じゃないの?
彼らもみんな自分の「現実」を持つのだろうか。
そういやさっきレジ袋の話してたな…。

「まあ名前と一緒で住んでる場所は言えないけどな。
 話す言葉とかノリで、お互いの現実に住む地域くらい
 予想できるだろ?」

「ゴルド、突然そんなことを
 初めてきたフレイに言っても
 頭がついて行かないと思うよ…」

「まあ、君やわしらは皆、同じ立場にいるというわけだ。」

ここが得体のしれない場所であるからこそ、
ウェンさんの一言がおそらく
一番現状を把握しやすい説明だった。

「ここの存在理由を考えるのもいいけど、
 今はここを最大限活用することを
 考えるほうがいいよ、きっと。

 あ、次の十字路、右に曲がるよ。」

道中、他の動物顔をした人々とすれ違った。
お店の店頭にいるヒトも動物顔だ。
彼らも「現実」をもっているのだろうか。

ムーンたちについていって到着した場所は、
広場というか、公園だった。

広い敷地に芝生が敷き詰められ、
所々木々が植えてある。

平らなところもあれば、斜面状の場所もある。
走り回れる広さはありそうだ。

そこには海が見渡せられるように
木製のいすが据えられていた。

「ここのイスに座ってぼお〜っと
 景色を眺めるのもいいけど、
 その横の芝生に寝転がりながら
 眺めるのはもっと気持ちいいよ。」

と、ムーンが薦めてくれる。

「ムーンはなんつーか、
 こういう一人で楽しむ方法を
 見つけるのうまいよな。
 大勢の前だと空気読めなそうだけど。」

「最後のセリフは余計だよ。
 …まあ当たってるけど…」

私は素直にそこへ寝転がってみた。

芝生がこそばくて気持ちいい。
正面には空と海しか見えない。

遠くへ来たな、と思う。
なんというか、自分の住むところからだ。

身近な人が信じられなくなったことや、
それに対するショックも、
今は遠い所にあるような気がする。

ふと横を見ると、
ムーンとゴルドが同じように寝転がっていた。

彼らも遠くに何かを置きっぱなしにしているのだろうか。
それも今の間だけに過ぎないのだろうけれど。

街の公園



「でも、不思議だよね。」

横で寝転がっているムーンが言う。

「僕やゴルド、それにウェンさんもツリーも
 ここの喫茶店や周りの町にくるようになって
 まだそんなに日がたってないんだけど、
 不思議とお互いに色々話をうちあけてしまうんだ。
 現実で起こった不満とか、悩みとかね。」

「だから俺はまだツリーと会話すらしてねえって。」

横のゴルドはふてくされながら
芝生の草花をじっと眺めて座っている
ツリーをにらみつけた。
ツリーの横ではウェンさんが椅子に腰掛けていて、
彼女を眺めて微笑んでいる。

「でも、なんだろう。
 ゴルドとツリー、二人ともお互い既に気遣わないというか、
 そんなに不快な存在とは思っていないでしょ?

 やっぱり、現実の世界のように下手な利害関係がないから
 気兼ねない態度で接することができるのかなぁ。」

最近、私は人と接するときは警戒をしている、と思う。
口が悪くて気が強いっていうキャラを周りに見せてる。
確かにそれは自分のキャラだし、
今までの人付き合いから自然と出来上がったものだ。

でも流石に親友の美樹には警戒を解いてた。
自分の人には見せられないような
弱い面も美樹には見せてた。
それは(今にしてみれば多分、としか言えないけど)
向こうも同じだったんだと思う。

でも今、私はそのことを後悔している。
弱い面を美樹に見せちゃった分、
それが仇となっているような気がするからだ。
それが自分のショックを大きくしているような気がするからだ。

そう、美樹が自分に近いところにいた分、
今のショックは大きい。

そんな現実に比べてこの場所は気が緩む。
遠い所なのに、いや、遠い所だからこそ
自分の弱みも見せられる気がする。

夢の中だから?

最初はそんな気持ちで
悩みを店内でぶちまけた。
でも今はその理由とはまた違う気がする。

空と海の間らへんを見つめながら
そんなことを考えていると、
ムーンが再び声をかけてきた。

「あぁ、なんか、ごめんね。フレイ。
 こっちが一方的にしゃべっちゃって。」

「え?あ、そんなの、気にしてないよ。」

というか、別に謝らなくてもいいだろう。
でもこれはこのムーンという男の、
礼儀とかそんなのからくるものじゃあなくて、
素直な気持ちからでた
「ごめんね」のような気がした。

「いや、なんかすごい不機嫌そうな顔してたから。」

「ウソ?私が?」

「え、あぁ、そんなことなかった?
 元々そう見えるのかな…」

ん?
なんだかひっかかるセリフだ。
それって…

「私の顔、そんな恐く見えるのかしら?
 失礼なこと言ってくるわね〜」

「え!?ゴメン、そんなつもりじゃあ…」

「ハハッ、ムーンも言うじゃねーか!」

私は起き上がり、腕を振り上げて
ムーンを殴るフリをする。

とっさにムーンも起き上がり、
私から逃げるような素振りを見せる。

ゴルドは腹を抱えて笑い、
ツリーは私達を見て何が起こったのかと
不思議そうに見つめている。
ウェンさんは相変わらず私達を見て
微笑んでいた。



どれくらい時間が経ったかは
よくわからなかったけど、
しばらくその公園でのんびりした後
私たちはこの街を散歩することに決めた。

「あの鳩のマスターの喫茶店では
 お金はとらないみたいだけど、
 他のお店ではこの世界の通貨で
 物を買うみたいだよ。」

私が小物屋さんに並んでいる
きれいな色をした貝殻のペンダントを
触らせてもらっているときに、
ムーンはこう教えてくれた。

「へぇ、じゃあそのお金は
 どうやって手に入るのかしら?」

「そりゃ現実と一緒だ。
 働かなきゃ金儲けはできねぇよ。」

横で謎の動物の角らしきものを
いじっているゴルドが答える。

「日給単位でそこらじゅうのお店や
 農場なんかで働くことができんだ。
 近くの森や海で狩りや漁をすることもできっけど、
 それには各組合の許可が必要なんだってよ。」

妙にリアルな話である。
とても夢の中の話とは思えない。

「でも私学校で禁止されてて、
 現実でもバイトとかしたことないのよね…」

「それは心配せんでよいじゃろう。
 わしみたいな体力のない老いぼれでも
 本屋の店子はさせてもらえたし、
 ツリーも小遣い稼ぎに
 ミカンの収穫のお手伝いを
 立派に果たしておったからな。」

と手提げ袋を片手にウェンさんが言う。
向かいの文房具店で袋ごと
原稿用紙を買ったらしい。
夢の中で物を書くのか?と
少しウェンさんの気持ちがわからなくなった。

「ただ、働く前に店の人にも注意されるけど、
 『特に僕達は』仕事中に眠っちゃあダメだよ。
 その日一日サボっちゃうことになるからね。
 そしたら日雇いでもお店の人に迷惑かけちゃうから。」

セリフの節々にピンとこない表現があった。
仕事中に寝ないということも
普通でしょ?とか思ってしまう。

「…まぁ今日は見て歩くだけにするわ。
 それだけでも十分面白いし。」

私達はそれからもしばらく「外出」し続けた。

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