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ごめんね火田さん

その2

私が立っていたのは洋風の喫茶店の入り口。

丸いテーブルと四つの椅子のセットがいくつかあって、
その奥にはカウンター席が5,6脚並んでいた。

店員さんはカウンター越しに一人。
客は三人ほど。

カウンター席に一人いて、丸テーブルに二人が
向かい合って座っていた。

窓から射す光もあって
昼下がりのどこにでもある
さびれた喫茶店を連想させる。

ただ、客と店員の姿がおかしい。
みんな顔が動物なのである。


でも私は「これは夢だ」となんとなく
意識していた。

ちょっと不思議な出来事も
「別にアリだな」と受け入れることができた。

たとえこんなメルヘンな光景の中で
犬顔と猪顔のテーブル席の男二人が
コンビニのレジ袋の話をしていても
「別にアリだな」だし、

たとえ鳩顔の店員がカウンター奥で
何か調理している手前で
その様子をただじぃ〜っと
眺めている客が
ほんの小さなリス顔の女の子だとしても
「別にアリだな」である。


鳩顔が私に気づき声をかけてくる。

「おっ、新規のお客さんは猫さんだね、
 いらっしゃい!」

あぁ、そして私は猫になっているんだ、と理解した。

少し私に驚いている犬顔と猪顔の前を通り、
私はリスの少女の横に座った。

「ご一緒させてよろしいかしら、お嬢さん?」

女の子は話しかけられて驚いていたが、
オドオドしながらもコクリとうなづいた。

「ハハッ、ここまでためらいもせずに
 席についてくれたお客さんも初めてかもね。

 でもそういう方に限って早めにここの
 数少ないルールを説明しとかなきゃ、
 すぐ違反しちゃいそうだなぁ。」

私は鳩の店員から
この場では本名を明かしてはならず、
自分で決めた名前を名乗るという
ルールを聞いた。

夢にしちゃあ具体的な決め事だなと思う。
でも今の私はそのことが煩わしかった。
適当に最近読んだ漫画の登場人物の名前を
借りることにした。

「じゃあ私『フレイ』って名乗ることにするわ。
 そういうことで、何かおいしい果実酒いただけないかしら?」


夢の中にいるときくらい、好き勝手に振舞いたかった。

高校生の私にとっては現実では
お店で飲酒なんかダメだからこそ、
夢の中でパァ〜っと飲んでやろうと思った。
現実なんか忘れたかった。

一瞬、店員さんがまさに
豆鉄砲をくらったような顔をした。

後ろからちょっと癪にさわるひそひそ声が聞こえる。

「珍しい女性客が来たと思ったら、
 なんかおっかなさそうだよな…」

聞こえてるんだよ、イノシシっ!

*

「いやぁ、まあ、お酒を出してあげるのは別にかまわないけど…
 そんな嫌なことでもあったの?」

鳩の店員がこういいながらお酒を用意してくれ始めた。

こうなったらヤケだ。
どうせ夢の中だし、今日あった嫌なことを
全部吐き出してやろう。

「そりゃ飲みたくもなるわよ。

 私の親友と好きだった人が
 抱き合ってたのを今日目撃しちゃったんだから。」

「ありゃあ〜」

「それは…
 きついんだろうなあ…」

後ろから男二人のいかにも
「同情してるよ」的な声が聞こえる。

横のリスちゃんは
いまいちピンときてないようだが、
私の表情から事の大きさを
感じ取ってくれているようだ。

私は店の中のみんなに聞こえるように
これまでのいきさつを話し、
明日からその二人と顔を合わせなければならない
わが身が如何に可哀想かを
熱弁してやった。

鳩さんが話の途中で出してくれた
オレンジキュラソーとかいった
オレンジ色の飲み物も、
グイと一息で飲み干してしまった。

「でも何か勘違いってことはないの?
 例えば親友がつまずいたのを
 先輩が支えてただけとか。」

一通り話し終わった後、
後ろから疑問の声が上がったので
私は振り返って
声の主が犬顔のほうだと
確認してから返事した。

「そんなわけないじゃない!
 しばらくその姿勢が続いていたのを
 私はこの目で見たんだからね!」

「は、ハイっ?、スイマセンデシタッ!」

犬顔は身をすくませて返事した。
よく見ると、眼鏡をかけたその犬顔は
気弱そうな表情をしている。
なんか余裕のなさそうなヒトだ。

横の猪顔は相変わらず
「うわ〜、この女目血走ってるよ、コエェ。」とか
デリカシーのないことを言ってやがる。

「まぁ、その親友さんが意図的に
 先輩に抱きついていたとしたら、
 かなりキツイ話だね。」

私が頼んだ二杯目を用意しながら、
店員さんは相槌をうつ。

「でもマスター、
 ただでさえ女はドロドロしてるんだ、
 ましてやこんな突然酒を一気飲みしちゃうような
 女子高生に自分の本命を譲るわけには
 いかなかったんじゃないのか?」

ニヤニヤしながらこんなことを
言ってくる猪に私はついにカッとなった。

「何よっ!
 私とあの子の仲のよさを
 知らないからそんなこと言えるんじゃない!」

「じゃあ何だよ、お前は
 その親友がお前のこと考えてるのに
 先輩と抱き合ってたって言うのか?

 それってなんか矛盾してないか?」


確かに。

私が今まで受け入れたくなかった
一つの仮説。

もし親友の美樹が私を
出し抜こうとしていたという仮説が事実なら、

その仮説を私が認めてしまったら、


私は世の中の人を
誰も信じられなくなるかもしれない。



私が返事にためらっていると、
入り口のドアが開く音が聞こえた。

「あっ、ウェンさん。」

「いらっしゃい、今日は遅かったね。」

店に入ってきた人物は熊であった。

その風貌からして
この店内にいる人々とは
歳が大きく離れているようだ。

リスの少女が
熊のおじいさんのほうへ駆け寄る。

「おや、新しいお客さんかね。

 はじめまして、ウェンと言うものです、よろしく。」

「あ…どうも、フレイと言います。」

そのウェンという老人の振る舞いが
あまりにも穏やかすぎて、
私のさっきまでの酔いと怒りも
あっさり殺がれてしまった。

「ツリーはフレイさんに挨拶したのかね?」

「してないよ、おやっさん。
 てか、ツリーまだ俺にも挨拶してくれてねーし。」

「あっ、そういや僕らもまだしてないや、自己紹介。」

「する間もなくこの子が酒を頼んで
 語り始めたからねえ。」

さっきまでの自分の行いを思い出して
なんとなくばつの悪い思いをしていると、
リスの女の子が私のほうへ戻ってきて
小さな声で彼女の名前が
ツリーであることを教えてくれた。

それから犬と猪も順に名前を名乗ってくれた。

「ムーンです、よろしく。」

「ゴルドだ。
 紹介遅れて悪かったな。」

「そいで、僕のことはマスターと
 呼んでくれればいいから。」

そういって鳩顔の店員…
もといマスターは二杯目の
お酒をだしてくれた。
次は梅酒かな?

ウェンおじいさんは私との間に
ツリーをはさむ形で
席に着き、こう尋ねてきた。

「さっきまで何か議論していたみたいじゃが、
 何を話してたのかな?」

私は同じ内容を
さっきよりも落ち着いた態度で話した。

冷静に思い出して話すと
さっきよりも事の信憑性やリアリティーが
増して聞こえるのは気のせいだろうか。

今度は横で猪…ゴルドがなんとなく
ばつの悪そうな顔をしているように見えた。
これも気のせいだろうか。

話を聞き終わり、ウェンさんは
フムと一言唸ったあとこう言った。

「とにかく、その親友の子には
 一度会って話を聞くべきではないかな?

 なんらかの誤解があるにしろないにしろ、
 それが必要なことに思えるのう。」

それはとても勇気のいることだろう。
そんなこと、正直考えたくない。

「でもまぁ、それも『店を出て』帰ってからすればいいことだ。
 今はここから『外出して』、散歩でも行ってきたらどうかね。」

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