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ショートショートを作ろう!

その2

近頃、僕は休日を楽しみにして生きている。

平日に仕事場でどれだけ嫌なことがあっても、
これからの休日のこと、そしてこれまでの休日のことを
思い出すだけで耐え抜くことができる。

*

その楽しみは、二ヶ月前の午後から始まった。

それまでの僕は
休日はだらだらと過ごすことのほうが多く、
どちらかというと本屋に向かうことは
まれであった。

勤務先のOA用品販売会社の事務所が
自宅から徒歩10分の所にあるので、
平日は最寄の駅には用はない。

その日は休日で、駅前にある「ブックスキャット」という本屋には
買い物のついでに立ち寄っただけであった。

その店は二階建てで
一階と二階にそれぞれレジがあり、
店員は各階に一人ずついれば
十分足りる位の広さである。

僕は二階の文庫本が置かれている区画で
なんとなく読みたくなるような本を探していた。

最初は特に気にならなかったのだが、
レジの打つ音が何度も聞こえ、
さらにレジの下のお金が収納されている引き出し(ドロワーというらしい)
が出てきたり閉まったりする音が連続して聞こえててくると、
さすがにレジの側を見てしまった。

見ると女性の店員が客に謝りつつも
困った表情でレジと格闘していた。

しばらくしてからなんとか無事に精算が済んだらしく、
その客は帰ったが、その後も女性店員はレジと
にらめっこを続けていた。

僕は適当に選んだ文庫本を手に取り、
その女性店員のいるレジに向かった。

僕の買った本の精算のときも
彼女は『まただ…』とつぶやきながら
レジのキーの打ち込みと訂正を繰り返した。

まだレジ打ちに慣れていないのかな、と
思いつつも僕はその店員の表情を見ていた。
心なしか若干彼女の目が潤んでいるようにも見えた。

気のせいかさっきの客のときよりも長い時間がかかった
精算が終わり、その店員は僕に
「おまたせしてスイマセン」と謝ってきた。

僕は彼女を不安にさせないように努め、
「いいえ、頑張ってくださいね。」と
なんとなく声をかけてみた。

すると、彼女も僕に何か言わなければ
ならないと思ったのか、こんな言葉を返してきた。

「あ、ありがとうございます!
 ええと…そのタートルネック、素敵ですね。」

*

余程頭の中が混乱していたのだろう。
もしくは彼女は所謂「間の抜けた」娘なのかもしれない。

まさか、客からの労いの言葉に対し、
店員が相手の服装を褒めてくるとは誰も思わないだろう。
この女性店員はどうかしてるよ、と思った。

そもそもレジの扱いも慣れていない店員一人に
1フロアを任せてしまう店もどうかしている。

…思えば、その日から毎週末にその本屋に
通うようになった僕もどうかしているのだと思う。
しかも決まってタートルネックを着て店に入るのだ。


そう。僕はその休日から
彼女を見に本屋へ行くことを
楽しみにするようになったのである。

*

彼女は未だにレジの使い方に慣れないようである。
僕は何故かその手際の悪さに惹かれてしまっている。

自分の仕事場でも彼女のレジ打ちの様子を思い出しては
知らず知らずにやけてしまっては周りから白い目で見られている。

彼女の手際の悪さも変わらないが、
商品を手渡すときの客に対する元気な声も変わらない。

今日は金曜日。
明日はまたあの駅前の本屋に行ける。

やっぱり最近の僕にとっては休日が楽しみだ。



〜おしまい〜

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